桜の木の下で-約束編ー


「行くわよ。
 行けばいんでしょ」



半ば吐き捨てるようにキツク言うと
扉を開け放って、つかつかと部屋を
後にした。


私の後ろをゆっくりとつき従う珠鬼。



朝餉の支度が整っている部屋へと
一歩踏み入れたら、鬼の民たちは皆、
私を見つめて頭を垂れる。





「姫様、おはようございます」



次々と声をかけていく鬼の民たち。



だから姫じゃないって言ってるじゃない。
そう突っ込み返すのにも、
もう疲れてきてる……。




「この場に和鬼さまがいらっしゃったら」

「こうして姫さまが戻ってきてくださったのに。
 今度は和鬼さまが」

「それもこれも、
 あの桜鬼がお二人を引き裂いたから」



また……。





口々に鬼の民たちが声を揃えるのは、
真実を知らない民たちが揃えて紡ぐ和鬼の一部。

桜鬼の悪口。



正直……うんざり……。





和鬼も桜鬼も和鬼なのに、
どうしてこんなに近くにいる鬼の民たちが
それに気がつかないの?





差し出された朝ご飯を口に運んで、
その場所を後にする。




民たちに見送られて珠鬼と一緒に
屋敷を出て暫く。



私と珠鬼の周囲が騒がしくなる。




「姫様、どうぞお下がりください。

 暴徒化した鬼たちが
 姫さまの人の気にあてられたようです」



緊迫した口調で私を守るように
自らの刀を鞘から抜き放つ。




角を隠すことすらせずに
剥き出しにして、長い爪を凶器に
一斉に襲い掛かってくる暴徒たち。


奮闘する珠鬼だが珠鬼一人では
私を守り切るなんて出来ない。


反射的に帯にさした短刀を
鞘から抜き放って、自らの体の前で構える。


チリリンと再び音が鳴り響いたとき、
珠鬼が他の暴徒と対峙している隙に
私を捕らえた暴徒の凶器。


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