桜の木の下で-約束編ー



反射的に身を縮めて体を屈めたとき
訪れるはずの衝撃は、鈍い音へと変わる。



頭からすっぽりと顔を隠す黒衣の羽衣。

その隙間からわずかに見える、
プラチナの髪。

朱金の瞳。


流れるような剣さばきで、
暴徒化した鬼たちを
一刀していくと、鬼狩りの剣で切られた
鬼たちは砂へと瞬時に崩れていく。



黒衣に手を添えた和鬼は
私と視線をあわせることなく
その場を立ち去ろうとする。


その刹那、珠鬼と隠れた黒衣越しに見つめあったように映った
和鬼は固まったかのように、その場で立ち尽くした。



『珠鬼……』



黒衣の奥から零れるように
流れ出た小さな言葉。



「桜鬼、貴様何しに来た。
 再び、姫様を奪いに来たのか?

 姫さまだけでなく、我が親友
 和鬼も貴様が手に掛けたか?

 それ故に友は姿を消したか?」




鋭く放たれた珠鬼の言葉。





ズキンと私の心は痛くなる。



やめて、和鬼をこれ以上苦しめないで。



やめて。
和鬼をこれ以上追い詰めないで。




珠鬼の刀の切っ先が和鬼へと向けられる。



じわじわと縮まっていく距離。




「いやぁぁぁぁぁっ!!。

 どうして、どうしてわからないの?
 桜鬼は……桜鬼の正体は……」


最後まで叫ぼうとしたのに、
その言葉を続けることは
腹部に入った鈍い衝撃がさせてくれなかった。


傾いだ私の体は、
細そうに見えてしっかりと
筋肉がついている和鬼の腕で
支えられた。


「おのれ。
 鬼狩、姫様から手を放せ」


再び和鬼に
刃とともにむかってくる珠鬼に
和鬼は私の体を投げつけた。



黒衣の中で
静かに涙を流す和鬼。



和鬼はそのまま、
姿を消した……。
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