桜の木の下で-約束編ー
その場に立ち尽くすように、
息を潜めて中の様子を伺う。
この場所で、風鬼の気を感じた。
ならばボクを壊していく
紅葉と言う名の少女、依子さんもいるのかしら知れない。
そう推測して、
その場所から咲のお母さんを見つめ続ける。
暫く時間が過ぎて、
ボクの体の痛みが増し始めた頃、
咲のお母さんの首元を絡めるように
背後から抱きつく、紅葉の姿。
その紅葉はやがて大きく成長して
依子の姿をかたどると
依子は無機質に淡々と話し始める。
☆
アナタの家族を壊すなんて
私には簡単なの。
アナタの家族を守りたければ
咲を追い詰めなさい。
咲をもっと苦しめなさい。
私からYUKIを奪ったあの子を。
あの子が居なくなれば、
YUKIは私だけのモノになるわ。
☆
何度も何度も依子の言葉で
無機質に繰り返される静かな声。
ゆっくりと伸びる両の手に、
咲の母親の体は
ガタガタと震え続けてた。
ボクが悪いの?
ボクが咲に近づいたから?
ボクが咲を選んだから、
依子はボクを取り戻したくて
咲を傷つけるの?
ボクは……ボクが……。
ボク自身を責めれば責めるほど、
真っ黒いものが、
ボクの中から湧き出でる。
その真っ黒な感情のまま、
痛みに任せて、鬼狩の剣を握りしめて
その場所から飛び出した。