桜の木の下で-約束編ー
鬼狩の剣を一振りずつ振り回すにつれて、
ボクの自我が薄れていくようで
もう咲の為に振るっているのか、
自分の為に振るっているのか
ボク自身もわからなくなっていた。
ボクはどうして、
この剣を振るい続けるの?
『全てのモノを
飲み込んで滅ぼすまで。
人の世にも、鬼の世にも
正しき裁きを。
すべての禍を滅ぼすまで』
黒い意識は、
ボクをより深く包み込んでいく。
ボクの意思で、
鬼狩の剣を振るい続ける
ボク自身を制御することすら
叶わなくなってきた。
肉を断つ鈍い感触が
ボクの手に伝わる。
心臓を一突きにされた、
依子さんの叫び声が周囲に轟いて
姿を消していく。
それでもボクの行動は
止まることをやめようとしない。
鬼狩りの剣。
切っ先は咲のお母さんへと
向けられていて、
剣を見つめながら怯え続ける
姿が視覚に届く。
それでも黒いものに支配された
ボクは、それをボクの意思で
やめることが出来なかった。
咲の母親に向けて鬼狩を振り上げた時、
外から窓を壊してボクにぶつかってきた
水の洪水。
「間に合ったか。
おいっ、お前。
誰が勝手に暴走しろって言った?」
水圧の攻撃から解き放たれて、
地面に叩きつけられたボクの胸倉を掴みあげる少年。
「やめろ、神威」
注意して、後ろから少年の体を
羽交い絞めにして引き離す青年。
そのまま青年は呆然としている
咲の母親の方へと駆け寄って介抱していた。
ボクを止めて、浄化した水があの時と同じ、
蒼龍の神力だという事はボクも気づいている。
少年が離れた後、数日前にも姿を見た、
蒼龍が長い髪を空にたゆとわせながら
ゆっくりと近づいてきた。