桜の木の下で-約束編ー



低く言い放つと、
ボクはゆっくりと鬼狩の剣を
鞘から解放した。



鞘から解放した途端に、
ボクの体を蝕む呪詛は
活発な動きを始めていく。





『どうだ?
 一番大切なものを奪われた悲しみは?

お前はあの日、私の大切なものを奪った』





風鬼の声と姿をしていたその人は、
ゆっくりと姿を女性の姿へと変えて行く。



それと同時に、声も男のモノから女のモノへと
変わっていった。




「紅葉……さん」



珠鬼が呟いた名前。






最初……、出会った時の小さな女の子が
ボクに名乗った名前。





「珠鬼?」


その名を知る珠鬼をボクを見つめる。




「風鬼の婚約者だった人だよ。

 あの日……君が彼を殺さなかったら
 彼女はその夜、
 風鬼と祝言【しゅうげん】を挙げる予定だった」




珠鬼の言葉が、
ボクを一気にあの時間に押し戻した。


ボクが風鬼を手にかけたあの日が、
二人の祝言の日……。


ボクは何も知らされずに、
風鬼をこの手にかけたの?


風鬼は
そんなこと何も話さなかった。


ただ終焉を望んだだけだったはずなのに。



「あの日のようにお前の大切な存在を殺すがいい。 

 私の可愛い傀儡よ。

 二人とも、アレを殺しなさい。
 私の願いを叶えなさい」



ユラユラと立ち向かってくる二人。





『YUKIを返して。

 YUKIは私だけのYUKIよ』





そう言いながら、
向かってくる依子さん。



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