桜の木の下で-約束編ー



依子さんの悲痛の叫び。

その言葉の意味を、
ようやく受け入れられるような気がした。


何度か自分で思うことがあった
人の世の時間。

由岐和喜を奪っていたのもボクなのだと。


ボクは守るべき世界を守れず、
守られていた世界からも大切なものを奪い続けてた。




「依子さん。

 依子さん……正気に戻って」






一定の距離を保ちながら、
何とか声をかけるものの、
どうすることも出来ない。







鬼狩……この剣を振るうしかないの?






剣を見つめていると、
刃に映し出されるのは
あの日、風鬼を殺し友殺しの出来事。


その後、映し出されるのは
咲鬼姫を見送った日。








迷いを打ち消すように、
柄を握る手に力が入る。






「殺せ。

 お前の大義名分の元、
 我愛しの風鬼を殺めた時のように」





一際強い声が放たれた途端、
一斉に向かってくる咲と依子。





依子の前。

ボクは、その姿を
YUKIの元へと変えていく。


ボクが彼女を引き戻せるとしたら、
彼女の中のボク以外有り得ない。




「依子さん」



彼女にとって懐かしい、
由岐和喜としてのもう一人のボクへ。



そうやって、桜鬼の操る力が届く
ボクのテリトリーへと引き込んでいく。




「YUKI。

 どうして……此処に……」




彼女の問いに、ボクは
彼女が喜ぶ言葉をYUKIの声色で返していく。



「依子さんが心配だったから。

 帰りましょう。
 社長が心配してますよ。

 ボクも傍に居ますから」


ゆっくりと手を差し出した手を、
躊躇しながらも、ボクの手に重ねた瞬間、
彼女はボクの力が及ぶテリトリーへと捕縛された。


すかさずYUKIの姿のまま、
ボクは、解放の言葉を続ける。






須王依子【すおう よりこ】。


我が名は、
桜鬼神・和鬼。

この者の手に宿りし、
鬼の刻印を閉ざし、鬼の干渉を断つ。

気を閉ざし、悪鬼を祓【はら】う。

汝【なれ】の御手【みて】に刻まれし
鬼の烙印【らくいん】狩りとらん


己が世界へ……。

心に宿りし、
YUKIと共に




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