桜の木の下で-約束編ー
沙羅双樹の木の下。
母の腕に
抱かれて紡がれた子守唄。
母の子守唄に重なるように
和鬼の子守唄を風が届けてくれた気がした。
その直後、神々の光に包まれた体内に
吸い込まれていった和鬼の愛刀は優しく暖かかった。
鬼狩の剣は、
光を照らし道を誘う【いざなう】標【しるべ】。
そして私は戻ってきた。
目覚めてから数日が過ぎても、
珠鬼は和鬼のところに連れて行ってくれなかった。
和鬼の部屋に出向いては、
帰宅して姿を見せる珠鬼は日に日にやつれていく。
そんなある日、
「姫様、和鬼が呼んでいます」
襖の向こうに控えた珠鬼が告げた途端、
私は部屋を駆け出して、和鬼の元へと飛び込んだ。
「和鬼っ」
声張り上げて、彼の名を紡いだ私は
横たわる和鬼に抱き付く。
「私……、和鬼に酷いことした。
私だけじゃない、咲鬼も和鬼を苦しめてた。
なのに何一つ気が付けなかった。
和鬼の想いに。
和鬼の愛情は表面だけじゃなくて、
もっともっと深いところあって、
その優しさに甘えてた」
だから今度は私が和鬼を守って見せるよ。
貴方が教えてくれた
本当に愛で。
そんな私たちの前に
再び姿を見せたのは紅葉。
紅葉が現れた途端に、
和鬼の表情が一瞬のうちに
凍り付いていく。