桜の木の下で-約束編ー



「貴女、さっきは
 よくも私を操ってくれたわね。
 
 私自身の甘さも原因だけど、
 貴女と交わって、
 貴女の寂しさが伝わった。

 だからってやっていいことと、
 行けないことがあるの。

 貴女はかつての私と同じ。

 寂しさは、
 貴女を闇に誘ってしまう。

 その闇に、貴女の大切な風鬼さんは
 近づくことすら出来ないのに。


 和鬼にはこれ以上、
 手はかけさせないから」




紅葉を睨みつけながら、
両手を広げて和鬼を守るように立ち上がる。



そんな私にお構いなしに、
和鬼はゆっくりと私が伸ばした両手を一つ、
ゆっくりとおろさせて私の隣で微笑んだ。



「咲、大丈夫。

ボクの刀、返してもらうよ」



そう言った途端、和鬼は私の胸の前に
指文字を描いてゆっくりと両手を翳す。  


和鬼の掌に吸い付くように
集められていく光の粒子。


私の胸が熱くなった時、
和鬼によって、引き抜かれる鬼狩剣。



剣はこの世界に生まれた途端に
眩しい輝きを放った。





「咲、これがボクの最後の仕事」




微笑んだ和鬼は、
桜吹雪に吸い込まれるように宙へと舞い上がると、
紅葉を引き連れて部屋から姿を消した。




「和鬼っ!!」



慌てて叫ぶ私。




ダメ、和鬼を
一人にしちゃいけない。





そう思って強く念じた時、
再び、姿を見せてくれた金色の鳥。



鳥はついて来いと言わんばかりに、
私の前を先導していく。





和鬼、貴方の傍にすぐに行くから。






珠鬼によって王族の証だと手渡された
短剣を帯に刺して勾玉を握りしめながら。


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