桜の木の下で-約束編ー



やがて静かに光が差し込む。



YUKIの姿が琴の音色と共に
シルエットで浮かび上がってくる。


ステージの背景には、
大きな桜の木。


そしてその桜の木からは、
桜吹雪が舞いあがる。


ステージが明るくなり
プラチナの髪に朱金の瞳が
ドアップで映しだされる。






魅了されるステージ。


歌声。




そして仕草の一つ一つ。









……間違いない……。




あれは
……和鬼だ……。

 


私はそんな確信を得た。






確信は得たものの、
私の体は金縛りにあったごとく
その場から動くことが出来ない。


TVの中、人の姿をした
鬼に完全に魂を魅了されていた。






悲しく切なく
心に突き刺さるように
刻まれていく。





プラチナの髪がアップになり、
お琴の弦を弾く美しい手の指先は、
流れるように走る。



フェイドアウトしていくサウンドと共に
和鬼は朱金の瞳をゆっくりと伏せる。


和鬼の瞳から、一筋の涙が
ツツツっと頬を
流れ落ちて滴となった。



ステージは再び暗くなり、
曲が静かに消えていく。


一時暗転したステージは
すぐに光を取り戻す。



ポカンっとして和鬼に魅了された
観客と司会者。


一瞬の沈黙の後、
司会者は言葉を続けた。


『はい。
 有難うございます。
 YUKIさんでした』

『ありがとうございました』


その鬼は、にこやかな笑みを
浮かべてお辞儀をする。





にこやかな笑みの下は、
やはりどこか物憂げで寂しそうで。



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