桜の木の下で-約束編ー
「ただいま。
司、一花先輩」
そうやって呟いた私に、
二人は想いっきり抱き付いてくる。
「さっ、咲。
今日は朝まで、寝かせないわよ。
何があったか、
しっかりと話して貰おうじゃない。
ねっ、一花」
そう言って私に抱きつく司は、
涙を零していた。
その夜、司と一花先輩と
同じ部屋で布団を敷いて眠った。
私が鬼の世界で経験したいろんな出来事を
真剣に受け入れてくれた。
翌朝から私の真新しい毎日が始まった。
鬼の国主と、
普通の女子高生の生活。
朝、起きてすぐに始めるのは
和鬼の代わりに鬼神として役割を務め。
和鬼がずっと街を見下ろしていた枝に腰掛けて、
精神を集中させながら、街並みを見下ろす。
そしてそのまま鬼の世界の様子を辿る。
朝の行事が終わると、
お祖父ちゃんのご飯を作って学校へ。
部活にどっぷりと浸かって、
放課後は司や、一花先輩と遊んだり、
お母さんの新しい家族の元へ出かけたりと譲原咲としての時間を満喫する。
帰宅して晩御飯の後は後片付けを終えて、
神木の回廊を渡り、鬼の国主としての時間を続ける。
鬼の世界を見守るために。
「お帰りなさい。
姫さま」
相変わらず、珠鬼が私を名前で呼ぶことはないけど、
それは咲鬼姫と重ねて呼んでいるわけじゃないことに
今は気が付いた。
私をその器と
信じてくれているから。
「ただいま、珠鬼。
今日の情勢を
教えてちょうだい」
珠鬼の話を聞き終えて、
玉座の隣に用意された、
もう一つの椅子に目をやった。