桜の木の下で-約束編ー
「依子、今日から宜しくね」
依子……?
その名前も何処かで
聴いたことあるかもしれない。
「YUKI、覚えていて?
YUKIの力に少しでもなりたくて、
有香に頼んで、私もこの事務所に就職しちゃった。
須王依子です」
須王依子と名乗った女性は、
とても大切そうにボクを抱きしめた。
そして……「貴方を返してあげるわ」っと
小さく呟いた。
依子さんと有香さんとボク。
依子さんが運転する車は、
事務所へと戻ってく。
「お帰りなさい、YUKIさん」
「YUKIさん、
体大丈夫なんですか?」
「うちの兄さんたち、
無茶やりませんでした?」
帰って来て、
事務所のビルに入った途端に
優しい声がボクを包み込んでくれる。
「あらっ、お帰りなさい。
YUKI、早速で悪いけど
最上階に来てくださるかしら?」
エレベーターから降りてきたばかりの
宝珠さんがボクを手招きする。
「依子、有香、今回は強力なメンバー
手配して置いたわよ」
「有難うございます。
えっと……ボクは宝珠さんのことをどうお呼びしたらいいですか?」
この空間に居る人は、ボクのことを知ってる。
だけど……ボクの記憶には、
病院で出逢ってからの時間があるだけ。
「和喜、貴方の名前で今は呼んでもいいかしら?
YUKIとしての仕事の時は、
私のことは社長・高臣のことは会長。
でもそれは役職が必要な時だけ。
私たちは、貴方の家族のつもりよ。
記憶がなくても、不安ならなくていい。
トパジオスレコードとクリスタルオフィス、そして十六夜レーベル。
その全てを担うことになった、高臣様が会長として守ってくれるわ。
さっ、貴方を待ってる皆のところに行きましょう」
宝珠社長がそう言うと、到着したエレベーターに乗り込む。
ボクは依子さんと、有香さんの二人に促されるように、
エレベーターに乗り込んで最上階へ辿り着くと、
何人かソファーに座って、高臣会長と談笑していた。
「お待たせいたしました。
YUKIです」
有香が告げると、
ボクは客人に向かってゆっくりとお辞儀する。