桜の木の下で-約束編ー
そんな少女が佇むビジョンを脳裏に思い描いていると、
不意に湧き上がってくる、柔らかな音色。
脳裏に浮かぶ音色を爪弾くように
ボクの指先は、軽やかに空【くう】で弦を弾く。
「YUKI、どうかしたの?」
覗き込むようにボクを見つめる有香さん。
「すいません……。
このパネルの桜を見ていたら、
フレーズが浮かび上がって」
そう言うと、有香さんと依子さんが
お互いの目を合わして合図を送りあう。
「そう、素敵な桜の木ですものね」
「次の新曲のPVは、そちらで撮りましょう。
春は満開の桜がそれは美しく、
YUKIのサウンドに色を添えてくれますわ」
「なら、その神社とは私が撮影出来るように
抜かりなく交渉しておきましょう」
何気ない一言から、
PVの撮影場所まで決定していく。
「さてYUKI。
貴方が私たちの元から『帰ってくる』と言い残して消えてから
もう二年半ね。
貴方の記憶があってもなくても、
私や高臣様には関係ないわ。
裕兄さまも仰っていたもの。
時間が貴方を助けてくれるって。
裕兄さまからも、
そのお手伝いをなさいって任されちゃってるから。
YUKIの歌が、大切な人を探すための歌だと
依子と有香から聞いたわ。
トパジオスとクリスタル。
二つの宝玉が、YUKIの歩く未来を照らすわ。
歌いなさい。
最愛の想い人を見つけ出すため。
貴方がもう一度、自分自身を取り戻すため」
そう言ってボクの背中を力強く押してくれる
人の存在が、優しくて温かかった。
「宝珠社長、宜しいですか?」
羚がそう言うと
手にしていたノートパソコンを開く。
開かれたノートパソコンからは、
ボクが過去に作り出してきた
様々な曲が、新アレンジで蘇っていた。