桜の木の下で-約束編ー
「まぁ、羚。
どうしたの?」
「今はネット環境も整っていて、
便利な世の中なんで雪貴にも手伝って貰いました」
ボクの演奏する和テイスト満載の
『月夜桜』ではなく、幾つにも音が重なるピアノのメロディーと
アコースティックギターで生み出される世界観。
「あらっ、この音色……。
国臣、すでに雪貴と一緒に貴方も手伝っていたの?
その奥に聴こえるのは、伊集院紫音【いじゅういんしおん】さまの音色ね」
耳を澄ましながら、社長が音色から演奏者の名前をあげていく。
「YUKI。
私も琴を嗜むことをご存知でしたか?
筝曲による合奏が必要な時は、お声を……。
私も宝珠の楽団の一人ですから」
会長が紡ぐ言葉に、
社長は嬉しそうに微笑んだ。
「さっ、YUKI。
貴方の返事を聞かせてくれるかしら?
もう一度、羽ばたいてみない?
ここに居るメンバーが、
全面的にバックアップするから」
そう微笑んでくれた社長に、
ゆっくりと頷いて手を握り交わした。
【更に一年半後(咲・大学二年)春】
新メンバーによるアレンジと、
新曲でボクの三枚目のアルバムが
販売されることが決まった。
約束通り、新曲の【PV】を撮影するのは
高臣社長が契約交渉してきてくれた、
桜塚神社、通称、塚本神社と呼ばれるその場所だった。
数日前に、春祭りを終えたばかりだと言う
その神社に、ボクたちは朝早くから車で向かう。
ボクが信頼できる力強いスタッフと一緒に
完成させた、新曲のタイトルは『桜舞い散るあの場所で』。
夢の中に何度も出てくる、
黒髪の少女へと綴ったボクの想い。
約束を交わすように紡ぎ合う恋歌【こいうた】。
新曲のPV用演奏メンバーとして来てくれたのは、
ドラムに智・ベースは羚・ギターは祈と魁。
そして……ボクの箏。