桜の木の下で-約束編ー
神社の敷地内に、機材を運び込んで
ボクたちは撮影の準備をしていく。
車の中でメイクと着替えを済ませて支度を整えると、
ドアを開けて外へと歩き出した。
風に乗って、
ふんわりと舞い上がる桜吹雪。
思わず桜の花弁に手を指し伸ばす。
そのまま誘われるように、
大きな桜の木の下に腰掛けて、
地上を見つめ続ける少女が目に留まる。
「君はこの神社の子?」
「えぇ、譲原咲よ。
この神社はこの地を治める桜鬼神(おうきしん)。
桜神(さくらかみ)をお祀りしているの。
私はこの神社の孫娘」
ボクを見つめる少女は嬉しそうに笑いながら、
声にならないほどの声量で『かずき』っと小さく呟いた。
ふいに桜吹雪がボクと少女を包み込む。
桜吹雪に映し出されるのは、
ボクと少女が過ごし続けた永い時間。
「……咲……」
蘇る記憶と共に
少女の名前を紡ぎだす。
「お帰りなさい。和鬼」
長い黒髪を揺らしながら
桜の木から飛び降りて、
少女はボクの胸の中に顔を埋めた。
「YUKI。
撮影準備が出来ました」
遠くから聞こえるスタッフの声。
「今、行きます。
すいません、今回のPVですが
桜の精は連れてきた子じゃなくてこの子で」
突然、スタッフに話しかけたボクに
隣で咲が慌てる。