桜の木の下で-約束編ー
CDそれぞれに、
そんなに特徴があるなんて。
どれか一つなんて選べないよ。
「私、ATM行ってくる」
そう言うと、商店街の中の銀行で
お金をおろして再び、その店へと戻る。
A・B・CタイプのCDを
3種類手に取って、レジへと持って行った私は
おまけのポスターと、購入特典の写真を手に入れて
凄く心が満たされていた。
鞄にすっぽりと収まった初めて買ったCD。
そして電車に乗って帰宅する道程。
電車の中にも、吊られたYUKIの広告。
YUKI一色に染められた
そんな空間が今は何故かとても嬉しかった。
嬉しいのに、理由がわからない。
私はどうして、
こんなにもYUKIが気になるの?
駅に着いたら、
司の家の車が駅に横付けされていて、
司たちに自宅まで送り届けて貰った。
「ただいま、お祖父ちゃん」
時代劇を楽しむお祖父ちゃんに声をかけて、
自分の部屋へと戻る。
買ってきたばかりのCDを
コンポの中に吸い込ませて、音楽を楽しみながら
私はベッドの中に寝転んだ。
疲れていた体は、
すぐに眠りの世界へと私を誘う。
夢の中、私は桜吹雪が
幻想的に舞う場所で、
抱きしめられていた。
晩御飯の支度をするのも忘れて、
朝まで眠り続けた私は、翌日からいつもの日常へと戻った。
起床、朝食作り、朝練、授業、放課後の部活練習、晩御飯作り。
相変わらず、靄【もや】がかる記憶に違和感を感じるものの
体は問題なしに日常生活を送ることが出来ていた。
今までと違うことは、
YUKIにどっぷり包まれて、生活しているってこと。
生徒手帳に挟んだ、
YUKIの切り抜き。
MP3プレーヤーに詰め込んだ、
YUKIの曲。
部屋にはCD屋さんで貰った
YUKIのポスターを飾った。
YUKIに包まれて生活する時間は、
恋にも似て、ドキドキと楽しかった。
何時もは殆ど見ることがない
TVのCMに、YUKIの曲が流れるだけでときめく。
YUKIがCMするお菓子……。
あれっ、これって……
あの日、依子先輩がくれたものと同じ?
そんな発見すらも楽しくて。
楽しい時間はあっという間で、
六月に入って二週間が過ぎようとしていた。
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