桜の木の下で-約束編ー
- 二週間後(六月中旬)-
その日もいつもの様に、朝の支度を終えて
日課である御神木にも挨拶をして、
YUKIをお供に山越え通学。
軽快な足取りで山道を降りると
コンビニの後ろでイヤホンを外し、
mp3プレーヤーも鞄の奥深くに片付ける。
靴下を履き替えて、
スカートの皺(しわ)・リボンも整えた。
鞄は右手。
腕に取っ手を通して肘で美しく固定する。
校則に指定された持ち方。
しずしずと歩きながら、
校門の方へと向かう。
「ごきげんよう。
依子先輩」
車で送迎されている依子先輩の姿を見つけて
慌てて駆け寄ると背後から挨拶をする。
「あらっ、ごきげんよう。咲」
振り返った依子先輩は
にっこりと微笑み返した。
「依子先輩。
今日も宜しくお願いします」
依子先輩と肩を並べて、
校門を潜ると、
二人揃ってシスターに朝の挨拶を告げる。
今月初日、体調不良で部活を一日休んだものの、
依子先輩は私をダブルスの
パートナーとして指名してくれた。
他校との交流試合にも、タブルスを組んで試合出場し
好成績を収めることが出来た私に、
今は嫌味や嫉妬を剥き出しにする存在も少なくなってきた。
多分、こうやって何かと依子先輩が気にかけてくれているのも
存在が大きいのだと思う。
「咲、先日の交流試合。
澤野(さわの)高校のテニス部の、山村美千留主将が関心してましたわ。
美千留さんと話していて、私も凄く咲の存在が誇らしくてよ」
「山村主将がそのようなことを……。
そう言っていただけたのも、依子先輩が親身になって指導してくださるからだと思います。
引き続き、頑張りますので宜しくお願いします」
「えぇ、私もこの夏の大会で引退ですもの。
咲、優勝目指しましょうね。
でも優勝の前に、問題はテストですわね。
咲は、テスト勉強大丈夫かしら?」
ふぇ?
突然の依子先輩の不意打ちのような言葉。
テスト?
白紙の綴られた問題の山を
打ち消すように頭を振る。
「えっと……あっ……、
テストの存在……忘れてました……」
段々小さくなっていく声に、
依子先輩は、クスクスと口元に手を添えて笑った。
「あっ、でも勉強も頑張ります。
ここ数日、遅咲きだと思うんですが
YUKIに目覚めて……家ではYUKI三昧だったって言うか……」
って私、依子先輩にまで
『YUKI』のことを話すなんて、
何やってるんだろう。
そう思っていたのに、
依子先輩の反応がその場で変わった。
「YUKI?
咲、貴方YUKIが好きなの?」
突然の問いかけにコクリと頷いた。
「なら私も切り出しやすいわ」
依子先輩はそう言うと
私の前に真っ白い封筒を差し出した。