桜の木の下で-約束編ー


行きたい、行けない。

行きたい、行けない。

でも……行きたぁーい。



滅多にないチャンスだもん。



「咲。

 何を百面相してますの。

 咲が行けないなら
 私も行けませんわよ。

 私も咲も同じ部活では
 ありませんの?」



そう言いながら、
にっこりと笑う依子先輩。



……確かに……。


依子先輩が行けるなら私も。




「安心なさい。

 今日の放課後の部活は、
 明日からの二日間に渡る
 実力テストの為にお休みですわ」


「あっ……。

 ……はい……テストでしたね……」




あぁー、忘れてた。
テストの存在。


テストも明日だったんだ。

そしたら益々、LIVEどころじゃない?



「えぇ、一年生・二年生には重要な実力試験ですわ。

 だけど部活はお休み。
 LIVEには行けましてよ。
 
 咲はどうなさいます?」



テストとYUKIと依子先輩とのデート。


三つを天秤にかけたとき、
私はテスト勉強よりも、誘惑に溺れることを最優先した。


「行きますっ」


いろいろと思い浮かぶことはあれど、
単純な私は次の瞬間、
……行きますって……大きく宣言。



「あぁぁぁぁ。

 行きます。行きます。
 行きたいです。

 だけど、どうしたらいいですか?
 私、祖父が」



落ち着け、私。

なんか何言ってるかわかんなくなってきた。



「えぇ、存じていますわ。
 咲は確かお祖父さまと二人暮らしでしたわね。
 
 それでは、こう致しましょう。

 咲、今日は私の家に泊まれば宜しいですわ。
 テスト勉強を理由に」



依子先輩は悪戯っ子のように
柔らかに微笑んだ。


その後、練習着に着替えて朝練で
コートに入った私は依子先輩と
コースの隅から隅を互いに狙いあいながら
乱打を繰り返し続けて汗を軽く流す。

六月の梅雨特有の、ジメッとした湿度を感じながら
朝練を終えると、水に濡らしたタオルで
ベタツク汗を拭きとって、着替えを済ませた。


そして教室へと直行する。


「おはよう。

 咲、宿題やってきた?」


席に座った私の元にプリントを片手に
司が姿を見せる。
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