桜の木の下で-約束編ー
「あっ、忘れてた……」
「やっぱり。
ほらっ、咲……さっさと
書き写しちゃいな」
プリントを写し終って司へ返した頃、
ショートホームを告げるチャイムが
校内に鳴り響く。
厳かに教会の鐘が鳴り響く。
それぞれが慌てて
着席するとそのチャイムの間
目を閉じて十字を切りながら、
朝の祈りを静かに捧げる。
退屈な授業が始まる。
授業中は睡眠学習が多い私も
今日は明日の実力テストに
青ざめながら必死に教科書を追いかける。
依子先輩に言われるまで、
実力テストのこと忘れてた。
一年間のなかで、春・夏・秋・冬に
一回ずつ行われる校内実力テスト。
この学園での【卒業】にまで影響する
大きな行事の一つ。
1日、3科目。
テスト時間、1科目につき:50分。
問題数100問。
合格は、85点以上。
ただし1科目でも落とすと無効。
あくまで2日間で行われる
6科目の成績を全て、
85点以上でクリアされないと追試になる。
しかも追試のチャンスは一回のみ。
追試でも落とした場合は
三年生でしっぺ返し。
三年生での再試験に合格できないと
卒業できないっと言う末恐ろしい行事。
それが、明日と明後日。
司越しに聞いた、
一花先輩の情報によると、その試験の日、
三年生も大学受験を意識した実力テストが行われるらしい。
チャイムが鳴り昼休み。
司が私の方へお弁当を持って駆け寄ってくる。
昼食はカフェラウンジか教室、
学校の庭園ですることになっている。
私と司は、三階のカフェラウンジへ
食事に出かける。
司はお弁当。
私は学校から特待生特権で頂ける、
今日の日替わり弁当。
「咲、今日行ってもいい?」
ご飯を食べながら司が一言。
「ごめん。
今日、用事出来ちゃった。
依子先輩とお出掛け」
声を弾ませて司に報告。
司は私の方に顔を近づけてきて
「何。
咲……何時からそんなことになったの。
でも依子先輩が相手だったら
私はおとなしく引き下がるしかないなー。
今日は一花もYUKIのLIVEで居ないから、
久しぶりにゆっくりと羽伸ばすかな」
司がそう言いながら、
諦めて席に座ろうとした時、
カフェテラスの周囲が騒めき始める。
悪寒を感じてくるりと振り向くと、
そこにはお久しぶりの一花先輩が、
にっこり笑って背後から強烈なハグ~。
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
またもや私の声は
……校内に響く……。
「あらっ、一花さま。
うちの部員が何か失礼なこと致しまして?」
何時の間にいらっしゃったのか、
依子先輩の声が聞こえる。
ぐったりと体力を奪われた体で、
依子先輩を見つめる私。
依子先輩が一花先輩と私の間に、
スルリと割り込んでくる。
「いえ、依子さま。
咲にご挨拶したかっただけですの。
司がお世話になっていますから」
一花先輩は、にっこりと微笑んで
目の前を立ち去っていく。