桜の木の下で-約束編ー
「……咲……。
十七時半に夢山駅で」
依子先輩もゆっくりと立ち去っていく。
一花先輩の襲撃でヒットポイントを
かなり奪われてどっと疲れた体を庇いながら
午後からの授業をやり過ごし放課後。
校門を出て、裏山に続く脇道まで
ゆっくりと歩く。
山道に入ってからは全力で
山を駆け上がる。
御神木に手を翳し、ただいまの挨拶。
ご神木は久しぶりに
あの日視たビジョンを流し込んでくる。
そのビジョンに
血が高鳴っているって言うのか……
拍動を大きく感じる。
御神木を後にして慌てて、
坂を駆け下り家に飛び込む。
「咲、騒々しいぞ」
お祖父ちゃんの声が、
部屋から聞こえる。
部屋の前で呼吸を整えて
ゆっくりと襖をあける。
「ただいま戻りました。
今日は、明日からのテスト勉強のため
学園の依子先輩のもとで勉強することが
朝練の時に決まりました。
明日の午後には戻ります。
勝手をお許しください」
一礼をして部屋を後にする。
慌ててシャワーを浴び、自分の部屋に戻ると
箪笥の中からありったけの服をベッドに広げる。
これはあまりにボーイッシュ。
こっちは……味気ない……。
こっちは?
なかなか気に入った服が見つからない。
やっぱり、
こうなったら和服ベースかな。
YUKIの衣装も和服っぽいものが多いから
許されるかな?
和服だけは祖母の形見が沢山あるから。
和箪笥を開けて単衣【ひとえ】を取り出す。
単衣を丈を短めに着つけて、
アンバランスの黒いスカートを履く。
着物とスカートを抑えるように、
細帯で変わり結びをして仕上げる。
最後に帯揚げ・帯締めをピシっとしめる。
黒く長い髪の毛はポニーテールに結い上げて、
ゴム付近を軽く逆毛でふんわりさせ、組紐【くみひも】で
アクセントのリボンを結びあげた。
大きな鞄の方には制服や、
試験勉強のためのテキスト・パジャマをいれる。
手持ち鞄には
ハンカチ・チリカミ・MP3プレーヤー・携帯電話
そしてYUKIのチケット。
荷物を持つと最寄駅から、
待ち合わせの夢山駅へと向かう。
夢山に向かう途中
電車の広告は……YUKI一色。