桜の木の下で-約束編ー
6. 再会Ⅱ~惹かれあう糸~ - 和鬼 -
『こんばんは。
君、琴が気になるの?』
首までの茶色の髪を揺らしながら
ボクを覗き込む女性。
戸惑いながらも、
琴触りたさに頷いたボク。
彼女は鍵を取り出して、
ゆっくりとクリスタルのケースを開いた。
龍頭(りゅうず)から龍尾(りゅうび)までを繋ぐ
木目の年輪を刻みこんだ美しい甲(こう)。
吸い込まれるように指先で弦を辿る。
震える弦が、響かせる音色。
『貴方、奏でられるの?』
そう言われて、
触れることを許されたお琴。
一心不乱に十三弦を操って奏で終わった後、
気がつけばボクの周囲には人の輪が出来ていて
集まった人たちの拍手に包まれた。
『有難うございます』
一言お礼を伝えて立ち去ろうとしたとき、
輪の中にいた一人にスカウトされた。
『ねぇ、貴方名前は?
私、ルビーレコードの有香琥珀【ありか こはく】よ』
そうやってボクに声をかけたのが
今のマネージャー。
彼女が人の世に、ボクの居場所をくれた。
例え仮初【かりそめ】でも居場所は居場所。