桜の木の下で-約束編ー
ボクの希望。
そう願ったはずなのにいざ、
咲がYUKIの目の前に現れると戸惑いを隠せない。
*
『YUKI、よろしくて?』
楽屋のドアをノックした音が聞えて、
ボクは甘く柔らかい声色で彼女に入室を促した。
姿を見せたのは、
声の主でもある依子さん。
ボクがお世話になっている
所属事務所の社長令嬢。
そして……後ろにいるのは、
気配だけで十分すぎるほどに伝わる存在。
着物にスカートを重ねた
斬新な姿の咲が後ろに控える。
……どうして君が……。
……咲……
何故、君は……ここにいるの……?
ボクは君の記憶を消したはずなのに。
君の眼差しはYUKIを見つめているの?
それとも……?
『YUKI、こちら私の後輩・咲。
さぁ、咲、ご挨拶なさって』
いやっ、違う。
ボクが求め続ける……咲だ……。
今……依子さんも
……咲……って言った。
別人じゃない。
残したYUKIの記憶を手掛かりに
彼女はこんなにも早く、ボクを見つけ出した。
彼女の一部となった、
ボクの血が証明してくれている。
咲を見つめるだけで、
あの日の契りを鮮明に思い起こす。
咲が依子さんに勧められて
ボクの前へと歩む。
動揺しているボクは
動揺を必死に抑えようと言い聞かせる。