桜の木の下で-約束編ー




確かに時間は23時に差し掛かろうとしてる。




「はい、和鬼もいろいろとあるから」


「まぁ、咲ったら。

 YUKIのことを和喜と呼べるほどに
 仲が良かったのね。

 何時か私にも紹介してちょうだい。
 YUKIに。

 咲のお姉さまの一人として」



そうやって悪戯っぽく笑みを浮かべる一花先輩。





一花先輩に和鬼を紹介する?





そんな日が来るのかな?




なんて思いながら、
そんな日が来てほしいと思った。



その夜、一花先輩の車を降りて
家の前を通り過ぎて御神木に続く坂道を歩いていると、
ふわりと私の前に舞い降りる桜吹雪を纏った鬼が姿を見せる。




「お帰り、咲」

「和鬼。
 えっ、どうして?

 私の方が早く会場を出てきたはずなのに、
 それに依子先輩が、打ち上げって言ってた……」


戸惑う私をお姫様抱っこして、
ふわりと空に舞い上がる和鬼。



和鬼に抱かれたまま辿り着く御神木の下。

ゆっくりと私は地面へとおろされた。



和鬼はいつもの枝に腰掛けて、
枝の上から私を見つめる。



「ボクだってたまには自分の時間を優先させたいよ。
 打ち上げは、記憶を操ってボクも参加してることになってる」


なんてサラリと告げる和鬼。


「思い出してくれて嬉しいよ、咲。

 今もこの場所から咲が帰ってくるのを
 ずっと見てた」


「ずっと見てたって、見えないでしょ?

 一体、和鬼はどれだけ視力がいいのよ。

 だけど嬉しいよ、和鬼が見守ってくれてて」



一瞬悲しそうな表情になりかけたのを見逃さずに、
続けて和鬼が喜びそうな言葉を続ける。




そう和鬼は出逢ってからいつもそう。




何故か、悲しそうな表情を浮かべることが多いから。






「咲、聞かせて、人の世の話を……」




そう切り出した和鬼が繰り出す質問を
永遠と答え続けながら眠らず朝を迎えた。

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