桜の木の下で-約束編ー
人生初の徹夜。
依子先輩の家に泊まっているはずの私は、
家に戻るわけにも行かず、お社の後ろで、
制服に着替えていつものように学校に向かった。
その日、いつもと
違ったのはただ一つ。
学院へ続く山道。
ずっと和鬼が一緒に居たという事。
「これだけの距離を歩くのに
人はこんなにも時間を使うんだね」
なんて真剣な顔で紡ぐ和鬼。
私、これでも早い方なんだけどなーなんて思いながら、
大欠伸をかみ殺しつつ山道を下りきった。
制服のスカートを定位置に戻して、
靴下を履き替え、リボンを結び直す。
下山の後のいつもの日課をして、
ゆっくりとした足取りで、門へと一歩を踏み出す。
「咲、今日は気持ちいいね」
背後から聴こえた声に、
ドキリとする。
何故ならって、山に帰ったと思ってた和鬼が
YUKIに姿を変えて、私の近くで微笑んでたから。
YUKIの存在に気が付いて、
門の周辺が騒がしくなり、視線が集まってくる。
『ねぇ、あそこに居るのYUKIでなくて?
隣に居るのは演劇部方かしら?』
『違いますわ。
隣に居るのは、テニス部の一年ですわね』
ひそひそと話しながら
遠巻きに集まるYUKIへの視線。
「咲、よかったら
学校を紹介してくれないかな?」
って……和鬼。
ったく、アンタのその無邪気さ。
天然さ、何とかしなさいよ。
今は、そういう時じゃないでしょ。
どうすんのよ……この始末。
溜息を吐きながら、返事をしようとした時、
怖い顔をした依子先輩が私の前で仁王立ちしていた。
「ごきげんよう、YUKI。
そして咲。
YUKIを奪って、朝帰りとはどう言う了見かしら?
貴女、自分の立場を弁え【わきまえ】になったらどう?」
そう紡ぐ依子先輩の目は凍り付くように冷たかった。
「YUKI、お父様が呼んでいますの。
あちらに車がありますから、どうぞ私と一緒に?」
そう言うと依子先輩は私の前からYUKIを連れ去って
嵐の様に去っていく。
依子先輩に連れられて、
オロオロとした戸惑いの表情の和鬼。