桜の木の下で-約束編ー





【七月】



依子先輩と衝突したあの日から、
私を取り巻く環境が、がらりと一変して二週間が過ぎようとした。


夏休みも間近になり、
夏季大会が始まったテニス部の試合も、
出場することは叶わなくなった。


依子先輩は、私ではない他の人をパートナーに指名して
私は蚊帳の外の住人となった。




依子先輩に目を付けられた私は、
その日から、今までの仕返しとばかりに
二年生の先輩や、ほかの一年生からの嫌がらせを受けるようになる。



ラケットを隠されたり、ガットを切られたこともあった。



だけど……何よりもきつかったのは、
特待生でありながら、夏季大会では成績を残すことが出来ない。


そしてそれは、
この学校を退学する可能性もある不安だった。


私がさせて貰える内容は、
毎日顔を出して筋力トレーニングと素振りをする日々。

そしてかろうじて球拾いの際に、
相手コートに打ち返す時のみラケットでボールを打てる。


そんな状態のままで、
成績を残せるはずもない。


私は強くなって、
特待生として貢献しないといけないのに……。

特待生の私は部活を休むことは出来ない。




そんな私に手を差し伸べてくれたのは、
やっぱり司と一花先輩だった。



一花先輩は、他校のテニス部の主将を務める
龍王寺さんを紹介してくれた。


龍王寺さんの家が経営するテニス教室で
掃除を手伝いながら、練習させて貰えるようになった。




何処かで練習だけでもしっかり出来れば、
次の選抜を勝ち上がって、
秋季大会のメンバーに入れる可能性もある。


だって依子先輩は三年生。
もう今大会の後、引退が決まってる。

そうやって自分を必死に慰めた。

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