桜の木の下で-約束編ー
「うん」
司も私の隣に並んで水道水を豪快に捻ると、
勢いよく出ている水の中にタオルを出して濡らしていく。
それをそのまま軽く絞ると
同じように肩からひっかける。
「あぁ、気持ちいいー。
ホント、たまにアイシングで冷やさないと
やってらんないよね。
この間、バスケ部の二年の先輩。
熱中症で運ばれたんだって。
咲、アンタも気をつけなよ」
そうやって言いながら、
司は鞄の中から、大きな水筒を取り出す。
「えっ?」
「えって、一花特製ドリンク。
酸味がほどよくあって、美味しんだから。
甘いしねー。
一花から咲の分って預かってきてるんだからちゃんと飲めよ。
咲が飲まないと、私が一花に怒られるんだからね」
そう言うと、司は私の前に水筒を突き出した。
ゆっくり手を伸ばして受け取ると、
司は毒見をするかのように、
自分の水筒の中身をゴクゴクと飲み始める。
「ぷはぁー。
やっぱ流石、一花。
なんたかんだ言いながらお姉ちゃんなんだよね。
ほら、同じものだから司も飲んでみな。
んで、一花が作ってくれたお弁当食べよう」
司に言われるままに口に含んだ、一花先輩の特製ドリンクは、
レモン風味の甘い、ほっとする味だった。
そして場所を変えて、司と二人でお弁当を広げて
昼食をとる。
「ねぇ……咲。
いつまで耐えるつもり?
あんな部活、やめちゃえば?
咲は、運動神経いいんだから
テニスだけが全てじゃないじゃん。
特待生で居続ける条件が
テニスってわけじゃなかったんでしょ。
うちの部活も、全国大会行くよ。
うちの部においでよ。
うちの先輩たちだったら、あんなことしない。
心から喜んで迎え入れてくれると思う」
司の言葉は優しかったけど、私は首を横に振る。
ここで逃げ出すようなことは絶対にしたくない。
それは……私のプライド。