桜の木の下で-約束編ー
……咲……。
玄関前……ボクは……
鬼としての凍りつくような
眼光と共にガラス扉を潜る。
『君たち咲に何をしてるの』
鬼としての言葉で
魂に刻み込んでいく。
『咲に手を出すことはボクが許さない』
足元から凍り【こおり】つかせるように
気を高めていく。
咲を取り囲んでいた者たちは
ボクが送り出したビジョンで空間を隔離して
魂から凍りついてしまう。
『君たちは、それだけのことをしたんだよ。
君たちの一人が居なくなったとて
世界は何も変わらないよ。
責めるなら自分自身を責めるんだよ』
最後に力を加えようとした時
ボクの手に暖かい温もりが伝わってきた。
その温もりがする方に、視線を向けると
咲がボクの手をギューっと握りしめていた。
「……和鬼……有難う……。
もういいから……。
そんなに悲しまないで……」
咲は小さく確実に届く声でボクに紡ぎだした。
*
『……和鬼……有難う……。
もう……いいから……
そんなに悲しまないで……』
*
遠いボクの琴線にその言葉が触れる。
……咲鬼……
「……咲……」
「和鬼……私は大丈夫。
だから……これ以上悲しまないで」
咲の柔らかな声にボクの
凍てついた心は、ゆっくりと溶け出していく。
空間の隔離を解くと
止まっていた現実の時間が動き始める。