桜の木の下で-約束編ー
「一花、今日も有難う。
咲、時間みたいだ」
和鬼はそうやって呟くと、
校門の前、ファンの声が見つめる中で
私を抱きしめて小さなキスを降らせる。
一際、甲高い悲鳴があがる中
事務所が用意した車へと乗り込んで仕事へ出かけた。
それが変わりすぎた私の朝の風景。
和鬼もまた事務所を移籍して、
活躍の場が広がりすぎた。
街を歩くとYUKIを見ない日が
ないくらいYUKI・YUKI・YUKI。
事務所公認の関係で、
やりたい放題のYUKIとしての和鬼。
YUKIとしての彼の傍で微笑む時間も好きだけど、
誰にも見えない和鬼とのデートは、
独り占め出来るから、もっと好きだと思えた。
恋に部活に、学業に必死に走り続けた二学期は、
秋季大会の試合での高成績と、
冬季大会に繋がる高評価もあって、
三学期の学費も免除が決まった。
冬休みに入り、新年を迎えた頃から、
私の中に、変化が訪れ始めた。
毎夜、見る不思議な夢。
どんな夢かと問われれば
正直、よく覚えていない。
だけど、その夢を見た後の
悲しみの余韻は私の心に
突き刺さるようで。
夢なんて滅多に見ない私。
見てるのかもしれないけど、
覚えてない私なのに、
その悲しみだけは、朝起きた後も引きづってしまって
体にも怠さを感じる。
そして眠りのたびに見る夢が、
共通しているように、感じるんだ。
*
……そう……
夢の始まりは
何時も……こう……。
ひらひらと……。
はらはらと……雪が降ってるんだ。
まるで桜吹雪のような
柔らかな舞を見せながら……美しい雪が。