桜の木の下で-約束編ー
そして……一人の少女が……
真っ白い着物を着て真っ暗な世界へ
歩いていく。
傍にいる誰かを置き去りにして。
最後は残されたその人の涙が
頬を霞めて地面に吸い込まれていく。
*
目覚めるのは、いつもこの場所。
目が覚めた私の涙からも、
涙が溢れて、泣きながら目覚める。
頬を伝う涙を掌で拭って、
ベッドから這い出す日の出前。
ストーブに火を灯して、
カーテンを少し開けると御神木をじっと見つめる。
裏山を見つめても、
和鬼の姿が見えるわけじゃない。
和鬼は相変わらず、
多忙なスケジュールをこなしてる。
新年早々に発売される予定の
事務所を移籍後の初アルバム。
そのアルバムを引っ提げての、
ツアーの支度に慌ただしい。
明日に控えた発売日を初日に、
全国ツアーが始まるYUKI。
半年をかけてまわる、
全国ツアーに、
来年の夏以降からはワールドツアーまで控えてる。
CDラックに片付けた、
和鬼より直接貰った、一足先のプレゼント。
そのアルバムを再生しながら、
床に体育座りをして毛布を羽織った。
和鬼が奏でる琴の調べが
心に寄り添うように入り込んでくる。
その調べを聴きながら
ゆっくりと辿っていく夢の記憶。
そう……、いつも感じる
夢の中で涙を流すその人の貌(かお)が
何故か和鬼と結びついてしまうのはどうして?
明確に見えないその顔が、
和鬼に思えて……。