桜の木の下で-約束編ー





そして……一人の少女が……
真っ白い着物を着て真っ暗な世界へ
歩いていく。


傍にいる誰かを置き去りにして。



最後は残されたその人の涙が
頬を霞めて地面に吸い込まれていく。







目覚めるのは、いつもこの場所。


目が覚めた私の涙からも、
涙が溢れて、泣きながら目覚める。



頬を伝う涙を掌で拭って、
ベッドから這い出す日の出前。

ストーブに火を灯して、
カーテンを少し開けると御神木をじっと見つめる。


裏山を見つめても、
和鬼の姿が見えるわけじゃない。



和鬼は相変わらず、
多忙なスケジュールをこなしてる。



新年早々に発売される予定の
事務所を移籍後の初アルバム。


そのアルバムを引っ提げての、
ツアーの支度に慌ただしい。

明日に控えた発売日を初日に、
全国ツアーが始まるYUKI。


半年をかけてまわる、
全国ツアーに、
来年の夏以降からはワールドツアーまで控えてる。


CDラックに片付けた、
和鬼より直接貰った、一足先のプレゼント。

そのアルバムを再生しながら、
床に体育座りをして毛布を羽織った。


和鬼が奏でる琴の調べが
心に寄り添うように入り込んでくる。




その調べを聴きながら
ゆっくりと辿っていく夢の記憶。




そう……、いつも感じる
夢の中で涙を流すその人の貌(かお)が
何故か和鬼と結びついてしまうのはどうして?



明確に見えないその顔が、
和鬼に思えて……。

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