桜の木の下で-約束編ー
私が感じるのは出逢った頃から、
ずっと感じてた……
寂しそうな瞳をする人だなーってことだけ。
その瞳の印象が強すぎて……。
その特徴ある瞳が、
あの夢の瞳と似ている気がするんだ。
はっきりとは見えないけれど……。
和鬼がずっと苦しんで
泣いてるような気がする。
私には……想像することしか
出来ないけど……。
自宅の坂の下。
司の家の車から下りて、
坂を歩き始めると『咲……』っと
聴きなれた声か耳に響く。
ゆっくりと姿を見せたのは
鬼の姿の和鬼。
「お帰り」
小さな声で告げる。
『ただいま。
今日は名古屋公演だったんだ。
終わったから、帰ってきた』
私にしか聞こえない
鬼の声で囁く和鬼。
影の中に身を潜めた途端、
力強く私を体を抱き上げて
一気に宙を舞った。
影から影を渡りながら、
瞬く間に辿り着いた神木の前。
和鬼をギュっと抱きしめて、
体温を感じる。
「逢いたかった」
「ボクもだよ。咲」
お互いの寂しさを埋めるように
暫く寄り添った二人。
くっついた二人の体温が、
互いの血に呼応して上昇していく。
「ねぇ、和鬼。
これ、司と一花先輩が
用意してくれたの。
和鬼と離れ離れになってても
寂しくないようにって」
そう言いながら手渡す、
携帯会社の紙袋。
初めてのプレゼントに戸惑いながら
恐る恐る受け取って袋から取り出す和鬼。
そんな和鬼を見るのも新鮮で。
和鬼の掌にすっぽりとおさめられた
携帯電話。