桜の木の下で-約束編ー


「貸して」


携帯電話を手に取ると、
自分の番号のデーターを電話帳に登録する。



「はいっ。

 電話してみるよ」



言うのと同時に発信ボタンを押すと、
和鬼の電話が、チリリンと音を鳴らす。


びっくりした表情を見せた和鬼。


「このボタンを押して」


そう言った指示通りのボタンを押した和鬼は、
初めて携帯電話と言う文明の利器に触れた。




『もしもし、和鬼』

『も……もしもし……。
 これでいいの?』


なんて答えながら、
受話器を外して私に微笑みかける。



「咲の声が聞こえたよ」

「うん。
 そうだね。

 こっちはメールって言う機能。
 こうやって使うんだよ」



一通り、携帯の使い方を説明すると
嬉しそうに触り始めた。



携帯に夢中になってる和鬼を見つめながら、
湧き上がった心に秘めた質問を投げかける。



「和鬼……。

 和鬼ってどれくらいのこと知りえるの?

 人間の世界なんて狭いよ。

 私なんてよく言っても、この山からだったら、
 住んでる家の先くらいまでが解れば上等だよ」



すくっと立ちあがって、
あの辺ねーって指さししながら説明する私。
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