モテ男とバレンタイン
「何でって……、一哉、チョコレート嫌いでしょう? 嫌いだって分かってるのに、わざわざあげるわけないじゃん」
「でも、前は毎年くれてたじゃん」
「前って……。一体、いつの話してるのよ。そんなの、小学生の頃の話でしょう? 渡してないのは今年だけじゃないんだから、そんなこと言わないでよ」
そうだよ。
一哉にチョコレートを渡していたのは、小学校を卒業するまでの話。
しかも甘いものが嫌いだということを知ってるのに、毎年わざわざ幼なじみのよしみで渡していた。
まあ、毎回義理チョコとしてだったけど。
でもその義理チョコだって、中1から高1の去年まで全くあげていない。
高2になって迎えた今年のバレンタインだって、もちろんあげるつもりなんてなかった。
……渡せるはずがないんだよ。
あげたってどうせ、困らせるだけだもん。
それに他の女子から貰ったチョコレートの山の中に、あたしがあげるチョコレートが混ざるのが嫌だった。
食べてもらえないものに区分されて、結局自分で食べる羽目になりそうだったから……。