モテ男とバレンタイン



むすっとした表情で一哉を見れば、切なそうに眉を下げられた。


何だか、胸が締め付けられる。



「俺、毎年色んな子からチョコレート貰うけどさ。本当は全部いらねぇんだ。悪い気がして、一応受け取ってるけど」



掴まれている手首への力がふっと弱まる。


でも、再びしっかりと掴まれた。

一哉の瞳に宿るのと同じ、強い力で。



「……俺は、ちえりからチョコレートを貰いたいんだけなんだ」


「……っ…」



ぎゅうーって、絞られているみたいだった。

心臓が痛い。痛すぎて、涙が出そう。



「何、それ……。チョコレート嫌いなくせに、意味分かんない」


「俺、ちえりから貰うチョコレートだけは普通に食えるんだよ。いつだって、ちえりに貰うやつだけは全部食ってただろう?」



そう言われてみたら、そうだった。


毎年渡していたバレンタインのチョコレート。

お店で買った子供向けのあまーいメダル型のチョコレートも、初めて手作りした不恰好なチョコレートケーキも。


一哉はペロリと綺麗に完食してくれていた。



< 11 / 15 >

この作品をシェア

pagetop