モテ男とバレンタイン
むすっとした表情で一哉を見れば、切なそうに眉を下げられた。
何だか、胸が締め付けられる。
「俺、毎年色んな子からチョコレート貰うけどさ。本当は全部いらねぇんだ。悪い気がして、一応受け取ってるけど」
掴まれている手首への力がふっと弱まる。
でも、再びしっかりと掴まれた。
一哉の瞳に宿るのと同じ、強い力で。
「……俺は、ちえりからチョコレートを貰いたいんだけなんだ」
「……っ…」
ぎゅうーって、絞られているみたいだった。
心臓が痛い。痛すぎて、涙が出そう。
「何、それ……。チョコレート嫌いなくせに、意味分かんない」
「俺、ちえりから貰うチョコレートだけは普通に食えるんだよ。いつだって、ちえりに貰うやつだけは全部食ってただろう?」
そう言われてみたら、そうだった。
毎年渡していたバレンタインのチョコレート。
お店で買った子供向けのあまーいメダル型のチョコレートも、初めて手作りした不恰好なチョコレートケーキも。
一哉はペロリと綺麗に完食してくれていた。