モテ男とバレンタイン
「あれって、我慢して食べてくれてたんじゃなかったの?」
「ちげーよ! 誰がいつそんなこと言った」
「いや、うん……。言ってないね」
「だろう? ちえりから貰ったチョコレートを我慢して食ったなんてこと、言っとくけど一度もねぇからな。俺は、おまえから貰うチョコしか食えねーんだ」
「あっ……」
その理由、分かるだろ?
そう言われたときにはもう、掴まれていた手首を引かれていた。
油断していたあたしは一哉の胸に着地して、あっさりと腕の中に閉じ込められる。
トクントクンと規則的に響く音は、一体どちらのものだろう。
「――ちえりが好きだ。俺、好きなやつから貰うチョコレートしか食えない」
耳元で囁かれる言葉がくすぐったい。
甘い響きが共鳴し合っていた。
暖房が効いている部屋に充満するチョコレートの香りに、何だかくらくらする。
甘い夢のような空間が、ずっと続けば良いと思った。
……一哉の言葉への返事は、とっくの前から決まってるよ。
義理チョコを渡していた頃から、ずっと。