モテ男とバレンタイン
ベッドに居座っているラッピング袋や小箱はすべて、今日学校で一哉が貰ってきたバレンタインのチョコレート類だ。
赤やピンクのリボンやシールで包まれたお菓子は、みんな手作りだろうか。
甘い香りが漂っていることを考えると、少し溶けているものもあるかもしれない。
「そんなに食べたいなら、先に食べてたら良いのに」
チョコレートの山を見つめていると、クスクスとした笑い声が聞こえてきた。
振り返ると片手には湯気が立ち上るマグカップ、もう片手にはオレンジ色の液体が見えるグラスを持つ一哉が部屋に戻ってきていた。
「……別に、早く食べたくて見てたわけじゃないもん」
「じゃあ、何で見てたんだ?」
ローテーブルの上にマグカップとグラスを置きながら、一哉がニヤリと笑ってあたしを見る。
どう答えようかと迷うあたしを、面白がっているみたいだった。
それが気に食わなくて、絞り出した声は素っ気なくなる。