モテ男とバレンタイン
「つーか、これ早く食おうぜ。俺、腹へったー」
一哉は一番近くにあった透明なラッピング袋を手に取った。
赤色のリボンで飾り付けられている袋の中には、クッキーが見えている。うん、義理っぽい。
あたしも近くの似たような袋を手にしつつ、遠慮がちに一哉に言った。
「……本当に、良いの? 一哉が貰ったものをあたしが食べちゃって」
「何を今さら。毎年食ってんだろ?」
「でも……」
「俺一人じゃ食いきれねーし、ちえりが居ないと困るんだよ。食べ残して腐らすより、チョコ好きのちえりに食ってもらった方が断然良いじゃん」
一哉の口にクッキーが一枚、まるっと姿を消す。
しばらくもぐもぐと口が動くけどすぐに表情が歪み、一哉はコーヒーを流し込んだ。
「うへー、やっぱり甘ったるい! 俺もう無理! ギブアップ! これ全部、ちえりにやるよ」
「えっ!」
まだ四枚もクッキーが入った袋がテーブルの上に投げ出される。
一哉の視線は一度ベッドの山に向けられたあと、降参したと言うみたいに背けられた。