ちっぽけな奇跡のはなし
「『そんなに走って
来なくたってよかったのに!』
って、僕は持ってたハンカチでキミの髪とか
顔を拭きながら言ったんだ。
そしたら、キミなんて言ったと思う?」
巴菜がクビをひねると、カレは笑った。
「『雨があなたを連れ去ってしまうかと
思うと、居ても立ってもいられなかったの』
って」
「未来のわたしが?」
「そうさ。
だから、びっくりした!
本当に、本当に一瞬キミが帰ってきたのかと」
カレの言う、『キミ』は未来のわたしだ。
カレは笑ってわたしの乱れた髪を
とかすように触れると、
「僕なんかのために走って
来てくれてありがとう」
と言った。