~D*A doll~
「………知ってるんですか?」
「女?男じゃないの?」
……………あぁ、なるほど。
「……あー、姫って制度知ってますか?その姫がどうやらヤバいことになってしまってるらしくて……」
「……あー、姫とか聞いたことある。騎王のお姫様疑惑の子、今ネットでめんどくさいことになってるわよねー」
…………………騎王とは、聖龍と同盟を結んでいる暴走族。
最近確かにインターネットがそれで持ち切りの気がした。
あるとんでもない美少女を中心に様々な男が争っているらしい。
その美少女は騎王の姫と称えられ、騎王のほうもまんざらではないとか違うとか。
でも実際は姫は別にいて、騎王の幹部たちが通っている学校の生徒会に所属している子らしい。
ネットで回っている写真を見たけど、サラさんと同じようにゾッとするほど整っていた。
「あの件で、あたし今マスコミに圧力かけてるんだけどねー?ちょっと遅かったかもしれない。今話題の三角関係疑惑ーってタイトルで色々流れちゃってるみたい」
騒がしく乱さないでほしいのに、と彼女は薄らと唇に笑みを浮かべた。
この世とは思えないほど美しい容姿。
「ま、そのお姫様とやらをちょっと遠いけど中央の繁華街近くのでっかい病院に運んでくれる?それで受付で副院長呼び出してくれればいいから」
「………いや、でもそんなこと…」
「大丈夫。名刺渡しとくから、それをその人に渡してくれる?ちなみにその副院長、若くてイケメンだからね?おじさんとかありえないし」
訳の分からない弁解を始めたサラさんは、サラさんの後ろについていた黒いスーツを着た男に顎で指示を出した。
すると、すっと出された名刺。
そこにサラさんはチュッと口づけた。
べっとりとしたグロスが付いた名刺。
「サイン……書く必要ないから、これで本物のあたしの名刺って証明ね」
そしてサラさんは俺の腕から離れ、一番手前側にいた雅に近づいた。
「これ、渡してくれる?」
すると遠慮がちに頷いた雅。
「………やだ、あなた何か可愛いねわねぇ?」
メガネで、顔は中世的なイケメンだが常に無表情の男に可愛いなんて言った女は彼女が初めてだと思う。
「ね、今度あたしのclubに来てみない?パスあげるからさ」
にっこりと雅に笑いかけたサラさん。
心なしか、雅の顔が赤くなっている気がした。
「………咲哉さん!」
そんな二人をボーっと見ていると、ふと声をかけられた。
視線をそちらに向けると……莉々香を抱えた龍翔と、その傍に居る諷都。
サラさんも龍翔の方を向いた。
「…………へぇ。暴走族ってイケメン揃いなのねー」
初めてサラさんを見た龍翔は、驚きに満ちた顔をしていた。
そしてまだ手に持っていた名刺を雅の膝に置くと、俺の元へ戻って来たサラさん。
「あの金髪、名前なんて言うの?」
なんて龍翔を気にするそぶりを見せながらもちゃっかりと俺の手に腕をからめる。
それを見た龍翔と諷都は当然のごとく驚いていた。
「………龍翔、挨拶」
龍翔はサラさんの事を知っているのか、俺のこの言葉に何も言わず、大事そうに莉々香を諷都に預けてこちらへ来た。
莉々香を受け取った諷都は、心なしか顔を歪めていた。
でもしっかりと横に抱いている。
「……聖龍の総長してます、龍翔って言います」
軽く頭を下げた。
ふーん、と言ったサラさんは一歩龍翔に近づいた。
腕を組んだままの俺も、自然と前に出てしまう。
「………あの子、あなたの女なのよねぇ?」
「………はい」
サラさんは、背の高い龍翔を見上げすっと片手を出した。
そしてその手を…龍翔の顎に近づけた。
龍翔の喉が、ごくりと鳴る。
そしてその手は強く龍翔の顎を掴んだ。
「あたしが誰か分かっているなら、何をすればいいか分かるでしょう?」
そして妖艶に微笑む。
顎を掴んでいる手は、ゆっくりと首筋を下がっていく。
そして、首に手をかけた。
ゆっくりと力が込められているのか、龍翔が眉間にしわを寄せた。
重たい空気がこの部屋にのしかかる。
「あたし、あなたの顔……咲哉くんと同じくらいタイプよ?」
そして次の瞬間。
ぐっと片手が龍翔の頭部に回ったかと思うと。
勢いよくそのまま引き寄せた。
「……っ」
咄嗟に龍翔は抵抗してしまったのだろうが、サラさんは全く気にせずに大の男をも上回る力で引き寄せた。
そして__________。
「………ってぇ!!」
なんと、俺の腕も引き寄せ、頭に強い衝撃が走った。
「……あれ?おかしいわね…。唇同士がくっつくはずだったんだけど」
そんなサラさんの呟きなんて聞こえず、ただ痛みが走る頭を抱える。
痛みに耐えながらも顔を上げると、なんと龍翔も頭を抱えていた。