~D*A doll~







裏の世界の魔女がひと騒ぎを起こしたものの、何とかそのあとはスムーズに莉々香を病院に運んで。









俺は聖龍の倉庫でサラさんの迎えに冬夜が来るそうなので、それを待っていた。








ちなみにサラさんが冬夜に打った睡眠薬と思われるものは、事前に誰かが栄養剤にちゃんとすり替えていたそうだ。








素人が……特にサラさんなら、睡眠薬を打てば昏睡状態に陥らせる可能性も十分にあるのだ。












やっとこの人から解放されると思うと、体の底から力が抜けた。










冬夜の苦労は気がしれないな、と軽く笑った。









「ねぇ、咲哉くんー。あたし何でもするからさぁ、ここから逃がしてくれない?」









それでも冬夜が来るまで後数十分。








俺は我儘女王様の相手をしなければならないようだ。










「魅力的なお誘いですが、遠慮しときます」








わざと俺の太腿に手を当てて、腕に胸を押し付けているサラさん。








男としては耐えがたい状況だ。









「…………えぇ。さくやくぅん。お願いだからさ、せめて冬夜からあたしを庇ってくれない…?」









上目使いで俺を覗き上げているサラさん。








本当に自分の魅せ方を熟知しすぎている。









「無理ですね」







「……んもう。あたしを誰だと思ってんの…?咲哉くんが望むもの、ぜーんぶあげるからさ」









………本当にこの人はどれだけ冬夜が怖いんだ。









しかも、その癖に冬夜を遠慮なくぶっ潰す。









「……俺の欲しいものは自分で全部手に入れますからご心配なく」









「えぇ?そんなことしなくても簡単に手に入るのよ?女?お金?____それとも…あ、た、し?」











ここまで来ると苦笑いしか出ない。










そっと、サラさんが俺の脚に置いている手に自分の手を重ねた。










予想をしていなかったのか、ピクリと小さくサラさんの指先が跳ねた。











そしてその指と自身の指を深く絡み合わせる。








驚いているサラさんに構わず、俺はその手を自分の足から持ち上げた。










すると変な体勢だったサラさんは案の定体のバランスを崩し、俺にもたれかかって来た。









その腰を勢いよく引く。











「__________男舐めてちゃ怖い目見ますよ?」











零れ落ちそうなほど大きい目を、見開くサラさん。








軽く囁いてみてから、そっとサラさんと自分の体を離した。












「俺が欲しくて欲しくて懇願するものは、ただ切ないもんばっかですから」










サラさんに俺はもったいなさすぎますよ、と笑ったところで______。











大きな破壊音とともに、息を切らした懐かしい人物が現れた。














「______________唯華。お前ってやつは………」











「…………え、え、と、冬夜…」















唖然と立ち尽くしているサラさんに、乱暴に足を立てながら冬夜が向かってきた。









一瞬だけ俺と目が会い、冬夜は口パクで何かを呟いた。









"騒がせたな"、と。









本当に騒がせてくれたよ、なんて思いながらも俺はただ笑みを返すだけ。









すると俺に対して興味は失ったかのように、冬夜の視線は真っ直ぐにサラさんに注がれた。











「________なぁ、お前、どうされたい?」











ざっと俺の横を通った冬夜から香った香りは、サラさんの腰を抱き寄せたときに香った甘い匂いと同じだった。











ふと笑みがこぼれて、そっと席を立ちあがる。











そう言えば下の俺の後輩たちは今頃突然の存在の登場に泡でもふいてんじゃないか、なんて後ろからかすかに聞こえた吐息に耳をふさぎながらそう思った。











咲哉side*END












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