桜田くんの第一ボタン
一年生が退場して、式の片づけをしている最中に、川崎くんに「中庭で待ってて」と言われたからわたしはまだ帰っていないんだけど……。
クラスメート以外もみんな帰っちゃったのに、まだかなぁ。
去年同じクラスだった川崎くんは、明るいクラスのムードメーカー的存在だった。
きっと二年生に上がってもそれは変わらないんだろうな。
人見知りが激しくて、最初は浮いていたわたしをクラスの輪に入れてくれた、とても大切な人。
だから、彼を待つのはいいんだけど、場所が……困るよ。
桜と春と、手放せないあのボタンがあるから彼を、思い出してしまう。
中学の卒業式に貰った、彼──桜田 葉(さくらだ よう)くんの学ランのボタン。
それは今も小さな巾着に入れて、わたしのブレザーの内ポケットに忍ばせてある。