桜田くんの第一ボタン
「それにしたってあんたは泣いてる場合じゃないじゃんか。
もうさっさと行きなよ」
トン、と軽くローファーの先で蹴られる。
わたしは少し不機嫌になりつつも、気恥ずかしさの方が勝って、唇を尖らせた。
待っててね! と言うとやだよ! と返された。
千果ちゃんってば酷い。
「だってどうせひとりで帰らされるもーん」
んじゃ、またねー。
そんな軽い口ぶりでひらひらと手を振って、千果ちゃんは本当にわたしを置いて帰ってしまった。
家に帰ったらとりあえず今日の報告も兼ねて、電話しようかな。
息を吐き出して、今度は胸いっぱい吸う。
胸の奥まで新しい空気が入って、冷たいなと思いながらも少し気合いが入った。
そうして、わたしは桜田くんを探し始めた。
──彼のボタンを貰うために。