桜田くんの第一ボタン
「……無理。もう取られた」
そう言われて、よく見てみると第二ボタンだけが取られている。
きちんとハサミで糸を切ったらしく、なくなったあとが綺麗。
きっとその子も貰おうと決めていたんだ。
わたしと同じだね。
ちゃんとハサミを用意してきて……。
そんなに出遅れていないつもりだったのに、わたしよりずっと早くに勇気を出したんだなぁ。
すごいね、わたしも頑張るよ。
なにも知らない、だけど同じ人を好きな子に少し親近感を抱いた。
「うん、大丈夫」
緊張で引きつりそうな頬をなんとか柔らかくして微笑みかけた。
「わたしが欲しいのは、第一ボタン、だから」
わたしと桜田くんを繋げてくれたのは第一ボタン。
あの日、桜の香りがした桜田くんの第一ボタンがずっと欲しかった。