桜田くんの第一ボタン
「自分がつけたのに取るのか」
「え、それは、その……」
確かに外れそうだと言ってつけたのはわたしなのに、取るのはおかしい?
あわあわと焦り出すわたしを見て、桜田くんがあの日みたいに微笑む。
その表情を久しぶりに見れたことが嬉しい。
「ちゃんとそれ以外の理由もあります」
「なに?」
「……秘密」
えへへ、と笑みを浮かべた。
こんな風に話す日がくるとは思っていなかったから、特別幸せを感じる。
ふわふわ、ふわふわ。
綿菓子そっくりの雲みたいな気持ち。
そんな想いと交わした「またね」を胸いっぱいに抱えて、わたしは中学校生活を終えた。
ちゃんと第一ボタンを握り締めて。