桜田くんの第一ボタン
どうしてわたしは桜田くんに大事なことをなにひとつ伝えなかったんだろう。
雲が空に浮かぶように見つめていただけで、なにもしていない。
卒業式の日だって、結局のところ彼を見つけることを諦めていた。
会えたのも、ボタンを貰えたのも、ただの偶然に過ぎない。
「……ばかだ、わたし」
胸が痛い。
息が苦しい。
「こんなことなら、好きって言えばよかった……!」
ようするに、勇気がでなかっただけ。
あとからこんな風に思って、届かないところで勝手に苦しんでいる。
でも、もう二度と言えない。
花びらが散る中、わたしはすがるように幹に手をついた。
声をあげて、だけど桜に隠れるように、ひとり泣いた。
そしてまた。
桜は華々しく咲き、舞い踊り、降り注ぎ、呆気なく散って……気がつけばわたしは、二年生になっていた。
卒業式の日から、桜田くんとは会っていない。