桜田くんの第一ボタン
「えーっと……」
「あ、あの、まだ名前覚えてないよね。
同じクラスの清水です。清水咲良」
「俺は桜田葉」
多分この学校にあなたの名前を知らない人はいませんよ、と思いつつも頷く。
「……」
うぅ、気まずい。
変に挨拶しちゃったから、なにか話さないといけないような……。
ぼーっとこっちを見てくるけど、なにも言う気はなさそう。
呼び方がわからなかったから、ちょっと困っただけなの?
わたし、ひとりだけ焦っている。
あぁ、緊張特有のまたあの心臓が早くなっていく感覚がするよ。
「あ」
ぱっと口を塞ぐ。
ま、また口に出しちゃった。
桜田くんがこっちを見ているよーっ。
「なに」
「あの、第一ボタンとれそう、だから。
わ、わたし裁縫道具持っているんで、よかったらつけましょう、か?」
目が合わせられない。
ちらっと見上げては、ぱっと逸らす。
頬がじわりと熱を持ってきた。
「……じゃあ」