KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
1章 ついてない日



ガタンッ!!


「ひ、ひどいっ!!」



明るい雰囲気の喫茶店の店内。

そんな中で1人、文庫本を片手に優雅に午後のお茶の時間を楽しんでいた私の後ろで、突如大きな物音と共に女の人の怒りに満ちた声が響いた。

少し前から、後ろの席のカップルが修羅場状態になっているのは知ってたけど、突如出された大きな音と声に、私の体は反射的にビクリッと反応してしまう。




……一体、何事だと言うのだろう。

あまりの剣幕にちょっと心配になり、僅かに振り向こうとした瞬間……




バシャッ!!


「ひっ!!……つ、冷たっ!!」


突然、私目掛けて大量の氷水が飛んできた。

咄嗟の事で避けようがなかった私は、頭から背中に掛けて、それはそれは良く冷えた水を被る事になった。




この真冬に、どう考えても水浴びは頂けない。

超、寒い。



一瞬の出来事で、状況が飲み込めずに茫然としながら、身を震わせる。





「あっ……」


後ろか、少し焦りを含んだ女性の声が聞こえ、それを合図に、ゆっくりと油の切れたブリキ人形のような動作で首を巡らし振り返る。



空になった、お水のおかわり用に机に置かれていたガラスの容器を片手に、立ち上がった状態で目を見開いている可愛らしい女性。

私のすぐ後ろの席で、視線を僅かにこちらに向けながらも、チャッカリと自分は体の位置をずらし、水の被害を最小限に抑えている男性。








……あぁ、どうやら、今日は、私にとって最高についてない1日のようだ。
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