KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
……そこの彼女。せめて、水を掛けるなら、グラスの水程度にしときませんか?
目の前の光景を見て、最初にツッコミを入れたくなったのはそこだった。
後ろからの攻撃に、全く避ける事の出来なかった私は、髪の毛は洗ったかの様にぐっしょりと濡れているし、服だって水分を含んでずっしりと重くなっている。
あまりの惨劇に、どうしても彼女の手に持っている容器が、グラス程度だったら良かったのにと思わずにいられない。
きっと、今日は厄日なんだわ。
そうじゃなかったらきっと、彼女が手にしたのはあんなにたっぷりと水が入る容器じゃなくて、机の上に置きっ放しになっている小さめのグラスだったろう。
そして、被害も今より小さく済み、ハンカチかタオルで拭く程度で何とかなるレベルだったに違いない。
いや、それ以前に、私の真後ろの男に直撃していて、私には水滴が跳ねてあたる程度だった可能性すらある。
あぁ、本当に今日は何から何までついてない。
自分の惨めったらしいずぶ濡れ姿から意識を背けるように、私は今朝からのついてない出来事を溜息混じりに脳裏に思い出していた。