KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
「可愛いですね」
小さく深呼吸して、冷静なフリをして言った言葉。
でも、心の中はざわめいていて、落ち着かない。
こういう服を着たい。
こういう服を着て、似合うって言われてみたい。
でも……
「私には可愛過ぎて勿体ない位……」
どうしても、素直に彼の言葉を信じてその服に手を伸ばす事が出来ない。
着て「やっぱり微妙かも」と言われるのではないかと、どうしても思ってしまう自分がいるから。
「君には勿体ない?何を言ってるんだ?君だからこそ、このコーディネートなんだろ?」
ハッと若干私を馬鹿にするような笑い。
まるで、私が明確な事実を前に、駄々を捏ねているだけのようなその口ぶりに戸惑い、次の言葉が出て来なくなる。
私だからこそのコーディネート?
もう一度、改めて、彼のチョイスした服を見つめる。
私の好みそのもののような可愛い服を、絶妙なバランスで組み合わせた服達。
うちの会社で出しているファッション雑誌の中にでも出てきそうなそれが、私の為のものだと彼は言う。
その言葉を信じてみたい自分と、またいつも通りガッカリしそうな予感に二の足を踏む私。
どうしていいのかわからなくなり、迷子にでもなったような気持ちで彼を見返すと彼はニッと自信満々の笑みを浮かべた。
「俺の見立てが信じられないっていうなら来てみな?後悔はしないはずだ」
それが私の背を押す最後の一言だった。
私は、少しの期待と不安を胸に、やっとその服へと手を伸ばしたのだった。