Voulez vous du chocolat?
そもそも、普通のチョコレートでも彼には渡せないというのに。
神無月君が毎年もらうチョコレートは、フランスの一流パティシエが作ったとか、イタリアのショコラティエが作ったとか。
なぜなら彼は……有名ケーキ店の一人息子だから。
その店は世界的な雑誌に何度も乗るほどだし、神無月君は時期オーナー。
ケーキ作りの腕も……とんでもないらしい。
そんな彼に渡すチョコレートが、ただ湯煎して型に詰めただけのようなものじゃいけない。
いやたとえ、ケーキを焼いたとしても力不足だろう。
それなのにあたしは、ただ湯煎して型に詰めただけのようなものすら作れない……!
「もう……なんでなの」
また油と分離したチョコレートを睨みながら、つい呟く。
「なんでって、お湯が少ないからでしょ。
ボウルの底が鍋についてる」