イケメン王子の花メイド
「…小塚森、それはちょっと違うんじゃない」
そう言って馨様が一歩前に出たところを、スッと棗様が手を出してそれを止めた。
馨様が棗様の顔を振り向くと、その棗様の表情は「何も言うな」と言っているように見え、
馨様は少し微笑んで一歩下がった。
……な、棗様?
「…俺は別に将来を約束されてるわけじゃない」
「はぁ!?」
「親父は自分の跡継ぎは自分で決めると言っている。もし俺が跡を継ぎたいなら、自分の手で掴みに来い、と」
「…なっ…」
その棗様の表情は至極真剣なものだった。
…そ、そうだったんだ。
まさか、社長がそんな風に言っていたとは。
私もてっきり滝沢財閥の跡取りは棗様で既に決まっているのだとばかり…。
……社長らしいと言えば、社長らしいです。
そして、棗様はそんな社長を心から尊敬しているのでしょう。
「…チッ、でもどのみちそんな完璧なんだったら跡取りも決まったようなもんだろ」
「さあな、それは親父が決めることだ」
「なりたくなくても結局なるんだろうが」
「…は?なりたくないわけないだろ。
俺は親父の跡を継ぐ為に今まで必死にやってきたんだ。それに、まだ俺は完璧なんかじゃない。
俺より倍頑張る奴がいたなら、俺はその10倍頑張るつもりでいる」
棗様の言葉に、小塚森は目を見開いた。
私は思わず口元を手で覆って、じわぁっと目に涙が溜まるのを感じて。
感動した。
棗様はいつも真っ直ぐで、決められたことはきちんとこなして、勉強なども人一倍頑張ってて…。
こんなにも、かっこいい。
「……なんだよっ」
小塚森様はグッと強く拳を握り締め、キッと棗様を見上げた。