イケメン王子の花メイド
婚約者
――「親父。聞いてないぞ」
「ほっほ……実は棗、私も今日初めて聞いたんだよ」
夕食の時間にて、大きなテーブルを囲むお二人は先程の〝婚約者〟についてお話されている。
やっぱりそこには響子様の姿はない。
普段は、響子様も含めた三人で食事をするのかな……。
なんて、そんな風景が少し頭に浮かんだ。
「俺の問題なのに、なんで俺の知らないところで進められてるんだ……」
棗様はそう呟くように言うと、パスタを口にねじ込んだ。
――『……っは?婚約者?』
『ええそう、しかも大手よ。和菓子で有名な小道製菓の一人娘』
『……え、小道製菓?
……いや、それより何勝手に決めてんだよ!』
『これでもあなたを心配してるのよ。あなた、こうでもしないと恋人なんて作らないでしょ』
『そんなことは母さんが決めることじゃない。俺の勝手だろ!』
『まあどうとでも言ってなさい。きっと婚約者の方に会ったらあなたもすんなり納得してくれるでしょ』
『……いや、会う会わないとかそういう問題じゃなく、』
『あなた好みの可愛らしい子よ。おしとやかで、成績も優秀。棗にピッタリだわ』
『母さん!俺の話を、』
『じゃあ私、これからタツミさんとこと電話しなきゃだから。また今度詳しく話すわね』
『おい待て、母さん!』――
そう言ってあのまま響子様は呼び止める棗様を置いてその場を去ってしまった。
その時から棗様のご機嫌は優れないご様子で。
……響子様はどこまでも突飛ですね…。